雨降ってなんとやら

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色んな話をします。

『キンプリ』の話・第一部「キッズ向けコンテンツ原作もの」として見る『キンプリ』

 発売されましたね、サントラ。「ドラマチックLOVE」を初めとした名曲揃いで、音質の悪い私のiPod(7年物)で聞くのが申し訳なくなるくらいです。

 さて、今日は『劇場版KING OF PRISM by PrettyRhythm』(以下『キンプリ』)がなぜ凄いのか、という話をしようと思います。

 アイドル論や演出面、応援上映についてはすでにあちこちで『キンプリ』のすごさが語られていますが、「キッズ向けコンテンツ」と「男性キャラ中心歌ものコンテンツ」の両方の視点から論じたものはあまり見かけないので、サントラ発売を機に自分で書こうと思いました。ついでに以前Privatterで公開した文章の一部サルベージになりますが、「映画館で見る映画」という視点からも『キンプリ』の話をしようと思います。

 そしてお察しの通り文章がめちゃめちゃ長くなったので、三部に分けて掲載することにしました。

 とは言え私は「キッズ向けコンテンツ」についてはそれなりに詳しいつもりでも、「男性キャラ中心歌ものコンテンツ」は『キンプリ』以前には『幕末Rock』『スタミュ』くらいしか縁が無かったため、なにか間違っていたり研究不足な点が多々あるかと思いますのでご了承ください。

 それではまず、「キッズ向けコンテンツ」から見て『キンプリ』はどのような作品なのか、という話をしようと思います。

 

「キッズ向けコンテンツ原作もの」として見た『キンプリ』

「キッズ向けコンテンツ」とは

 当記事における「キッズ向けコンテンツ」とは、「未就学児~中学生を対象として開発・展開されているコンテンツ」のことを指します。

 一口に「キッズ向けコンテンツ」と言っても、多くの分類をすることが出来ますが、大まかには「男児に向けたものか」「女児に向けたものか」「男児・女児両方に向けたものか」に分ける事が出来ます。

 更に、キッズ向けコンテンツの多くは、メディアミックス展開の一環としてテレビアニメを放送します。おもちゃ・ゲーム・カードといった「ホビー」を子供達に、あるいは子供達の親御さんに購入してもらうため(つまり「ホビー」を販促するため)に、そのコンテンツを原作としたテレビアニメを土日の朝・夕方、あるいは平日の夕方に放送する。これが、キッズ向けコンテンツにおける最も普遍的で確実なやり方です。

 キッズ向けアニメの多くはDVDやBlu-rayといった円盤を売ることよりホビーを売ることに重きを置いており、アニメの続編が放送されるかどうかはホビーの売れ行き・展開にかかっていると言っても過言ではありません。

 とは言えキッズ向けアニメにもコンテンツ先行型やホビー先行型、そもそもホビーの販促は目的ではないアニメなど細かな違いもあるのですが、話が逸れるのでここでは割愛します。

 

プリティーリズム・レインボーライブ』について

 さて、『キンプリ』の前作にあたるテレビアニメ『プリティーリズム・レインボーライブ』(2013年4月6日~2014年3月29日)(以下『レインボーライブ』)はアニメ「プリティーリズム」シリーズの三作目であり、「女児向けホビー原作アニメ」になります。

 

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 『レインボーライブ』の主人公は、『キンプリ』にもその姿がちらっと登場した女の子、彩瀬なるちゃん。『キンプリ』の時点では高校生になっていますが、『レインボーライブ』では中学生です。「プリティーリズム」シリーズは全作『キンプリ』同様に菱田正和さんが監督を務めており、『レインボーライブ』も例外ではありません。

 テレビアニメ「プリティーリズム」シリーズの原作は、2010年から2014年まで全国で稼働していた女児向けのアーケードゲームプリティーリズム」です。

 

プリティーリズム』ゲーム公式サイト

http://www.prettyrhythm.jp/game.php

 

 現在稼働中のアーケードゲーム『プリパラ』の前身に当たり、現在でも全国に6店展開している「プリズムストーンショップ」にて遊ぶことが出来ます。

 この「プリティーリズム」の特徴は、「プリズムストーン」と呼ばれる、筐体から排出されるハート型の石を使って、ゲームの中の女の子キャラクターを着せ替える(コーディネートする)ことが出来る、という点です。そしてプレーヤーは、プリズムストーンを使ってコーディネートされた女の子がプリズムショーをする姿を見ながらリズムゲームをします。

 アニメシリーズの作中でもプリズムストーンは、プリズムショーに挑むキャラクター達の着替えに必要なアイテムになります。

 また、『レインボーライブ』に限った話ではありませんが、アーケードゲームを原作としたテレビアニメは実際の稼働状況と連動してコーデや曲を登場させます。それはもちろん、アニメを見ている女の子達に実際にお店に行ってゲームをプレイしてもらうためです。

 例えば、実際にアニメを見て、なるちゃんにこのコーデを着せて、なるちゃんの曲「ハート♥イロ♥トリドリ~ム」でプリズムショーがしたい! と思った女の子がいるとします。放送を見た後で、近所のビックカメライトーヨーカドーのおもちゃ売り場に行ってプリティーリズムをプレイすると、なるちゃんで遊ぶことが出来て、「ハート♥イロ♥トリドリ~ム」でプリズムショーをすることが出来ます。一方で筐体から排出されるプリズムストーンはランダムなので、遊べば遊ぶだけ欲しいコーデを揃えられる可能性は高くなります。

 たくさんの子供達(時には大きいお友達)にたくさん遊んでもらうための原作ホビーとの連動は、ホビー販促を目的とするほとんど全てのキッズ向けアニメにおいて重要なポイントになります。

 

 『レインボーライブ』は女児向けとして放送されていましたが、人間ドラマの濃密さやプリズムショーの見応え等、女児だけでなく大人が見ても面白いと、キッズ向けアニメを好む人達の界隈では非常に評価が高い作品でした。

 『レインボーライブ』はなるちゃんを初めとした女の子キャラクターが物語の中心です。しかし、女性中心の物語の中でもドラマがしっかりと描かれていたのが神浜コウジ・速水ヒロ・仁科カヅキの男性キャラクター達でした。彼らは決して女の子の相手役・恋愛対象としてだけの存在ではありませんでした。『キンプリ』でも僅かに語られた男達のドラマが、ほぼ全編に渡って熱く描かれていました。

 そして凄いのが、プリティーリズムのゲームではコウジもヒロもカヅキも遊べないところです。彼ら3人は、ゲームで遊べるキャラクターではないにも関わらずショーのためにCGモデルが作成され、専用の曲が用意され、そして3人で歌っているのです。

 

 余談ですが、ヒロは筐体仕様CGモデルはゲーム『プリパラ&プリティーリズム プリパラでつかえるおしゃれアイテム1450!』のために制作され、実際にプレイすることが出来ます。

 こちらのゲームは実際のプリティーリズムの筐体のゲームがどんな感じだったのかが分かるようになっているので、気になる方はプレイしてみてはいかがでしょうか。「pride」でプリズムショーが出来るのはもちろん、ヒロが跳ぶはちみつキッスも見れます。全てのプリズムジャンプにきちんとヒロの声が付いています。

 シナリオ執筆は『レインボーライブ』の副シリーズ構成(第1話~39話)・シリーズ構成(第40話~第51話)を務めた坪田文さんで、シナリオもキャラゲーの枠にはとどまらない良作です。

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 そして『キンプリ』は、『レインボーライブ』のコウジ・ヒロ・カヅキの3人のユニット「Over The Rainbow」にスポットを当て新世代のキャラクター・一条シンを主人公に据えた、いわゆる「『レインボーライブ』のスピンオフ作品」という位置付けになります。

 しかも、『プリティーリズム』シリーズとして『キンプリ』を見ると、実は『キンプリ』は初めての、総集編ではない完全新作映画なのです。

 『キンプリ』が製作されるに到るまでの経緯については、『キンプリ』のプロデューサーであるエイベックス・ピクチャーズの西浩子さんへのインタビュー記事で詳しく語られるので、是非読んでみてください。

ascii.jp

 

「キッズ向けコンテンツ原作」としての『キンプリ』

 さて、ここまで「キッズ向けコンテンツ」についてと、『プリティーリズム・レインボーライブ』についての話、もとい、これからの話を理解するための前提知識の説明をしました。いずれにも慣れ親しんでいる人には退屈だったかもしれません。

 ここから本題の「キッズ向けコンテンツ原作という視点から見た時の『キンプリ』」の話に入ります。

 

 さて、『キンプリ』は、キッズ向け・女児向けコンテンツ原作作品として見ると非常に異質な作品です。どう異質なのかと言いますと。

 

「原作ゲームの展開がほぼ終了しており」

「ホビー系タイアップ皆無の」

「男性キャラクターをメインに据えて」

「映像企画・製作会社が企画した」

「3年前(公開当時)に放送終了した女児向けアニメの」

「女児向けではないスピンオフ劇場用映画」

 

 これ、キッズ向けコンテンツ原作アニメ作品としてはやばいところだらけなんです。

少しずつ解説していきます。

 

「原作ゲームの展開がほぼ終了しており」
「ホビー向けタイアップ皆無の」

 キッズ向けアニメにおいて、初めからホビー販促はしないとされているものでない限りこれはとんでもないことです。いやキンプリはキッズ向けに制作されたわけではないのですが。原作のタカラトミーアーツはあくまで協賛として製作委員会への参加。

 先ほども述べた通り、ゲーム「プリティーリズム」は現在プリズムストーンショップでしか稼働していません。普通、ホビー原作アニメの劇場版となると、原作ホビーが映画に合わせてどんどん新商品を出します。しかし『キンプリ』に合わせてプリティーリズムの新弾が稼働するなんてことはありません。もちろんプリパラとのタイアップもありません。プリパラの筐体で大和アレクサンダーが使えたりなんかしません。

 これはつまり、「映画を公開しても映画の興行収入以外での大きな収入が見込めない」ということです。

 

「男性キャラクターをメインに据えて」
「映像企画・製作会社が企画した」

 『キンプリ』は西さんが社内会議にてオバレの3人がメインの深夜アニメの企画を提出したことが始まりです。そもそもおもちゃメーカーからの企画ではない。ホビー原作アニメなのに。

 そして『レインボーライブ』は男性キャラクターが物語の主軸としてどんどん前に出て来るという点で女児向けとしては異質ですが、『キンプリ』はほぼ男性キャラクターしか出て来ません。

 女児向けアニメは、女の子が主人公なのが基本です。その女児向けアニメに登場する男性キャラクターをメインに据えるならば女児ではない層に向けて展開する、つまり深夜枠での放送。理に適っているように見えますがそもそも女児向けアニメを見ている「大きなお友達」の人口がそう多くない(これについては第二部で)のに、西さんは思い切ったことをしたなあ……と思います。しかしそこから様々な積み重ねを経て『キンプリ』に繋がっているのだから西さんに足を向けて眠れません。

 

「3年前(公開当時)に放送終了した女児向けアニメの」
「女児向けではないスピンオフ劇場用映画」

 ホビー原作アニメの続編はホビーの売れ行きにかかっている、という話を先ほどしました。つまりホビーの展開が終了したら、普通はもう続編の制作も放送も期待することはできません。

 女の子達をメインに据えている女児向けコンテンツの場合は男性ファンからの支持を得ていることが多いため、アニメが終了しても何らかの形で展開を続けることもあります。プリティーリズムの場合は「プリシェイ」という『プリティーリズム』シリーズのキャラクターと楽曲が登場するリズムゲームが配信中です。

 プリティーリズムの場合、後継作品である『プリパラ』がゲーム・アニメともに好調な展開をしています。最も大きなお客さんである「女児とその親御さん」は現在そちらに向いています。つまり、『レインボーライブ』の場合、続編を作ろうとしてもお客さんが「大きいお友達」しか見込めないのです。

 また、キッズ向けアニメの正統なる続編をホビー系タイアップ無しで、そして収益がきちんと見込める形で作ろうと思った場合、その当時子供だった人達が自分でお金を稼いで払う事が出来るようになる時期まで待つ必要があります。その期間は普通だいたい15年くらいでしょうか。

 しかし『キンプリ』の場合、『レインボーライブ』最終回からまだ3年しか経っていない時点での公開です。『レインボーライブ』最終回当時7歳だった女の子もまだ10歳です。

 プリパラが好調という事情もあって、『キンプリ』は『プリパラ』から幼い女の子のお客さんを取ることがないようにと、競合を避ける事をマーケティングの際は最優先にしていたようです。実際、『キンプリ』の公開発表直後に公開された映画『とびだすプリパラ み〜んなでめざせ!アイドル☆グランプリ』に『キンプリ』の予告編は流れませんでした。

 「本来女児向けに制作されていたアニメの登場人物をメインとして女児向けではない作品を作る」という事が相当なチャレンジです。キッズ向けコンテンツ原作なのに、キッズに向けて作っていないからです。『キンプリ』の場合、グッズも公開当時に劇場用グッズなども販売されていたり販売予定が発表されていたりはしましたが、グッズのアニメ制作元への利益還元率はそう高くありません。円盤の発売予定も初めはなく、ほとんど興行収入でしか収益を見込むことしか出来ないのです。

 イベントやインタビュー記事で菱田正和監督や西さん、タツノコプロの依田健プロデューサーらが語っているように、本当に崖っぷちの状況の中で作られた作品だということは察するに余りあります。

 

 「キッズ向けコンテンツ原作としての『キンプリ』」がいかにとんでもない作品なのかお分かりいただけたでしょうか。

 続いては第二部にて、「男性キャラ中心歌ものコンテンツとしての『キンプリ』」のお話をしようと思います。

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