雨降ってなんとやら

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色んな話をします。

『キンプリ』の話・第二部「男性キャラ中心歌ものコンテンツ」として見る『キンプリ』

 『キンプリ』の話・第二部です。

 この話は第二部なので、第一部を読んでから読んだ方が分かりやすいかと思います。第一部はカテゴリーの「『キンプリ』の話」のところから読むことが出来ます。

 

 第一部の記事を書いている途中、2016年4月27日(水)にて開催された菱田監督らによるトークイベント「プリズムエリートの二次会」にて「興行収入5億円」というニュースが発表されて開いた口が塞がりませんでした。ついこの間、3月9日のサンキュー♡上映会で3億円突破と発表されたばかりだったような気がしていたのですが、なんだかとんでもないコンテンツと出会ってしまったと思いました。

 それもこれも、2015年初頭頃の私に『プリティーリズム・レインボーライブ』の視聴意欲を起こさせてくれたTwitter上のプリズムエリートの皆さんのお陰です。この場を借りてありがとうの代わりに好きって言わせてください。

 さて、第一部では「キッズ向けコンテンツ原作」としての『キンプリ』の話をしました。第二部では「男性キャラ中心歌ものコンテンツ」としての『キンプリ』の話をします。

 『キンプリ』は「男性キャラ中心歌ものコンテンツ」としては非常に異質なのです。

 

「男性キャラ中心歌ものコンテンツ」とは

 まず、「男性キャラ中心歌ものコンテンツ」について。

 この「男性キャラ中心歌ものコンテンツ」というのは私の造語ですが、もしかしたら私が知らないだけで既にこの言葉を使用している人が私より先にいるかもしれません。もしいたらごめんなさい。

 「男性キャラ中心歌ものコンテンツ」とは、主に中学・高校生以上の女性をターゲットにした、歌う男性キャラクターがコンテンツの中心になっているコンテンツのこと全般を指します。私はこの手のコンテンツに明るくないのですが、いわゆる「アイドルもの」が大半を占めている印象を受けます。アイドルではなくバンドや役者だったり、アニメ作品そのものがミュージカルだったり、様々な形態で存在していますが、この「男性キャラ中心歌ものコンテンツ」のほとんどに共通しているのは「中高生以上の女性がターゲットである」ということです。

 しかし、私が「女性向け歌ものコンテンツ」とは言わずに「男性キャラ中心歌ものコンテンツ」と表記することにしたのには、いくつか理由があります。

 まず、菱田監督自身が『キンプリ』を「女性向け」としては考えていないという点。そして、女性をターゲットにしつつ男性ファンの存在を視野に入れているコンテンツも存在しているためです。

 

「男性キャラ中心歌ものコンテンツ」のプラットフォームの形は様々ですが、基本的にゲーム(コンシューマーゲームソーシャルゲーム問わず)やアニメ、あるいはCD・アルバムそのものです。いずれも初めから中高生以上がターゲットなので、メディアやグッズ、イベント展開などもその層を意識したものになります。

 

『KING OF PRISM』という『プリティーリズム』から生まれた新たなコンテンツ

 とあるインタビュー記事にて、菱田監督と依田さんがこのように語っています。

 

菱田:ただ今回作っているのは『プリティーリズム』って言われると『プリティーリズム』なんですけど、今回作っているのは『KING OF PRISM』なんですよね。今やらなくちゃいけないのは新しいコンテンツを作り上げることなんです。

 

依田:僕も『プリティーリズム』は良い意味で引きずりたく無くて。『劇場版プリパラ み~んなあつまれ!プリズム☆ツアーズ』で菱田さんが引導を渡してくれたので、『プリティーリズム』は女児アニメとしてはきれいに完結した作品なんです。なので、またここが新たなスタート地点として作っています。

 

菱田:今回は新しいコンテンツとして見て欲しいですね。

引用元記事

www.animatetimes.com

  『キンプリ』は女児向けアニメ『プリティーリズム・レインボーライブ』を原作とした作品でありながら、新しいコンテンツなのです。

 そして『プリティーリズム』から『KING OF PRISM』になるにあたって、「女児向けコンテンツ」から「男性キャラ中心歌ものコンテンツ」へとシフトしたことになります。

 個人的にそれを一番最初に意識することになったのは、『キンプリ』のフライヤーが最初に配布された場所が2015年11月に開催されたイベント「アニメイト ガールズフェスティバル」(以下「AGF」)のエイベックスブースだった点でしょうか。

 AGFは年に一回開催され、その名の通り女性向けコンテンツが一堂に会するイベントで、毎年非常に盛況なようです。ようです、という曖昧な表現なのは、私がAGFに行ったのは2015年のAGFが初めてだったからです。目当ては『キンプリ』のフライヤーではなく『SHOW BY ROCK!!』と『スタミュ』の物販だったのですが、結果的に『キンプリ』のフライヤーももらってくることになりました。

 フライヤーを貰った時、『キンプリ』は本当に女児向けじゃない作品なんだな、とぼんやりとではありますが思いました。Over The Rainbowの3人は『レインボーライブ』の頃から登場しており、この時点で女性ファンの存在は意識していたでしょう。とは言え、2014年12月に開催された『プリパラ&プリティーリズム クリスマス☆パーティー』で公開されたHiro×Kojiの「pride」、2015年3月に公開された『劇場版プリパラ み〜んなあつまれ!プリズム☆ツアーズ』の「ルート4 胸キュン!プリズムボーイズツアー」のように、映像作品として登場する際は一応女児向けの体裁は取っていました。(ルート4は毎週金曜の最終上映回限定上映でしたが……)

 それが『キンプリ』でとうとう「女児向け」であることをやめたのです。詳しくは第一部で述べましたが、『プリティーリズム』の後継シリーズである『プリパラ』との競合を避ける以上は「女児向け」であることをやめざるを得ないというのもあります。

 それでは女児向けであることをやめた時、Over The Rainbowが中心にいるコンテンツはどんなコンテンツになるのか? 天才作詞作曲家・神浜コウジ。絶対アイドル・速水ヒロ。ストリートのカリスマ・仁科カヅキ。Over the Rainbowは、そんな3人で構成されたプリズムボーイズユニットです。3人で歌い、踊り、プリズムショーをします。自然と、「男性キャラ中心歌ものコンテンツ」になるのです。

 

「男性キャラ中心歌ものコンテンツ」としての『キンプリ』

 それでは本題の、「男性キャラ中心歌ものコンテンツ」として見た時の『キンプリ』の話をします。

 ますキッズ向けコンテンツを愛好する人間として言いますが、キッズ向けアニメを好んで見ている人の人口は、アニメファンの人たち全体の中で見ると少ないです。そもそも、「子供向けだから」という理由だけで見ない人が多い。多すぎる。いくら面白いよと言っても見ない。声優ファンの人に○○さん出てるよ!と言っても見ない。○○デビュー作だぞ!と言っても見ない。「子供向けだから」「話数が多いから」とか色々言って見ない。そういう人達が何を見ているかって言うと深夜アニメです。

 そういうわけでというわけではないですが、夕方や朝は子供向けアニメの枠で埋まっていることもあり、「男性キャラ中心歌ものコンテンツ」においてメディアミックス展開の中でテレビアニメを放送する時は、それがどれだけ子供でも見れる内容であったとしても、必ず深夜帯に放送されます。

 それでは『キンプリ』はどうかと言いますと、原作がまず女児向けアニメ。女児向けアニメの男性キャラクターを中心としたスピンオフ作品です。まず女児向けアニメを見ているアニメファンが少ないのに、そこに「男性キャラ中心歌ものコンテンツ」として参戦したわけです。

 しかも今は「男性キャラ中心歌ものコンテンツ」の戦国時代と言っても過言ではないくらいです。男性キャラが歌って踊るコンテンツはもうたくさんあります。そして『キンプリ』は、初めて「女児向けアニメ原作」としてその戦国時代に現れたコンテンツなのです。そもそも当時「Over The Rainbow」と聞いてピンとくる人がいったい何人くらいいたんだろうという話です。

 この「知名度の低さ」という大きなハンデを『キンプリ』が公開までにどのようにカバーしようとしていったかといいますと、前売り券の絵柄で話題性を作ったのが最初の仕掛けでした。

www.animatetimes.com

 前売りが5枚綴りというだけでも十分「やばい」のに、その2種類ある絵柄のうち1種が男5人の全裸。その上そのバージョンの前売り券の名前が「正装ver.」。もう意味が分かりません。

www.animatetimes.com

  こちらの記事で「スタッフ」氏による解説がインタビュー形式で紹介されましたが、読んでもやっぱり意味が分かりませんでした。でも数か月後に『キンプリ』本編を見たらその意味が分かってしまったので本当に恐ろしい作品だと思いました。

 ともかく、この前売り券もプロモーション戦略として押し出されたものでした。

 

 更に公式は、『キンプリ』から初めてOver The Rainbowに触れる人もいることから、2015年11月の時点で「90秒でわかる!Over The Rainbow」という動画を公開しました。ただしこの動画、3分06秒あります。

www.youtube.com

 

 また、西さんなどがインタビューなどで答えているように、『キンプリ』は初めからリピーターを獲得することを目標としていました。

ascii.jp

  第一部でも紹介したこちらのインタビュー記事でも触れられているように、製作委員会を構成するはエイベックス・ピクチャーズ、タツノコプロタカラトミーアーツのたった3社。スポンサーもタイアップも何もない。『プリティーリズム』の知名度が高いとは決して言えない。スポンサーもタイアップも何もないからお金もない。しかも世の中、競合相手として女性向けに作られた男性キャラ中心歌ものコンテンツで溢れ返っている。

 そうした本当に「崖っぷち」とも言える状況下。公開前のニコ生で監督がスタッフに無断でファンに宛てた3枚分の手紙を書いて読み上げ「劇場に足を運んでください」とまで言うほどの逼迫ぶり。

 そして『キンプリ』は公開され――ここから先は今この記事を読んでいる皆さんもご存知の通りです。紆余曲折を経て『キンプリ』は興収5億を突破し、名実ともに間違いなく「大ヒットアニメ映画」となりました。

 

 原作の低い知名度。

 資金は少なく、お金も十分に使えない。

 前売りもそんなに売れてない。

 競合コンテンツ多数。

 

 これらの数々のハードルを『キンプリ』がなぜ乗り越える事が出来たのか、これについては第三部「映画館で見る映画としての『キンプリ』」で軽くではありますが触れようと思います。

 とにかく、『キンプリ』は「女性向け歌ものコンテンツ」としてはかなり異質なところからスタートした作品だということがこれで分かってもらえたのではないでしょうか。

 

 第三部、「映画館で見る映画としての『キンプリ』、まとめ」に移ります。

k-iruka417.hatenablog.com