雨降ってなんとやら

雨降ってなんとやら

色んな話をします。

サインが署名のキャラが好きだ

先日、スタミュ3期華桜会メンバーのサインが公式Twitterで公開されたのだが。


応援しているキャラであるところの冬沢亮のサインが「サイン」というより「署名」だった。
すごい。最高だ。ここまで完璧な署名は早々見れるものではない。留め跳ね払いが教科書通りにきっちりかっちりしている。多分小学校の時は硬筆コンクールに本気で取り組んでいたタイプだと思う。このサインとあとは冬沢亮名義の成人済みの戸籍と書類を用意すればクレカの審査通っちゃいそうである。

以下のツイート添付の画像でスタミュ二期までの主要全キャラ分のサインを見ることが出来る。


もうこの23人分のサインの個性の溢れ方が本当に素晴らしい。ほぼ日本語覚えたての楪は平仮名で名前を書いているし、天花寺はシンプルに名前を書いているだけなのに筆文字故「梨園の貴公子」らしさが際立つ。戌峰や蜂矢は自分の名前に入った動物を中心に置くことでイラストっぽい可愛らしいサインになっている。
そして柊のサインも署名である。柊の字は初登場(高3の春)時17歳、2期時点で18歳であることを考えればかなり大人っぽい。銀座の伊勢丹あたりでカードで支払う人が書きそうなサインだ。MasterCardのCMとか多分出れる。

私が思うにキャラクターのサインは、小さなシンボルの中にそのキャラの個性が思うままに発揮される場である。
それはスタミュに限った話ではない。
アイマスのアイドルで好きなサインのデザインを並べてみた。


(左上から右に姫野かのん、葛之葉雨彦、速水奏二階堂千鶴

サイン一つでキャラクターの個性が良く見えてくる。かのんのことをよく知らなくてもかのんが可愛い物好きな事が伝わるし、雨彦がなかなかの曲者という事が分かる。奏は背伸びしたい大人っぽい少女だし、千鶴さんは大人らしさの上にちょっと過剰なまでの華やかさを加えている。

そして以下が、私の好きな「サインが署名っぽいアイドルのサイン」だ。


(上から大河タケル、握野英雄、萩原雪歩

サインが署名になっているキャラクターは、マジックで、ただシンプルに、役所の書類に記入するかの如く己の名前を書いている。
個人的に、サインが署名になっているキャラは、サインを考えた時点で「超真面目」「不器用」「芸能人っぽいサインを書く事への照れがあった」のいずれかであると思われる。タケルのサインなど「名前を書くだけだけどちょっとサインっぽくしようとした」感じの文字の跳ね方もあって更に可愛い。

ちなみにかなりのレアケースとして、「真面目ではあるもの不器用でもないし照れがある訳でもない、ただありのままの己が最強である故にサインが署名になったのであろうキャラ」もごく稀にいる。名前は出さないが二人ほど知っている。

私がサインが署名になっているキャラを好きな理由は、一見没個性な「署名」形式になっているにも関わらず、サインが署名というごくごくシンプルなその一点だけで個性の表明が出来てしまう所だ。

さて、華桜会の例で言えば、冬沢は他の四人が芸能人っぽいサインを提出する中淡々とシンプルに自分の名前を書いたのだろう。
周りの四人は突っ込むに突っ込めない。幼馴染の千秋は「それサインていうか署名だろ……?」って言うくらいはしたかもしれない。
だが冬沢は潔癖なまでにチャラチャラした事を嫌う真面目な優等生である。己の目指す所がトップスターの役者であろうとそれは変わらない。自分以外の人間がやるならともかく、自分がそんな英字やら崩し字やらの小洒落たサインを書く事は彼の硬派過ぎる美学に反している(多分)。ついでに千秋との関係も拗れに拗れている。例えお前のことが嫌いだけとまだ別の感情が胸にあるとしても、それはそれとして日頃の態度は冷たいものだ。若干むっとしながら「何か問題でも?」と返して終わりである。会話はキャッチボールになる前にボールが叩き落とされて終わる。
入夏が「Iri」の崩し字をガって書いてハイビスカスの判子バンって押してはいおしまい!と爆速でサインを書き上げているその頃冬沢は丁寧に冬沢の沢のさんずいを書いているのだ。多分。

そして同じように五人組で一人だけサインが署名のグループがある。SideMのHigh×Jokerだ。

(一応左上から右に向かって伊瀬谷四季、秋山隼人、若里春名、左下から冬美旬、榊夏来)

冬美旬のサインだけ見事な「署名」である。
季節が名前のモチーフとなっているグループで、「冬」担当の人のサインが署名という偶然の一致がちょっと面白い。他は全く似てないグループなのに。
旬は初期の頃はアイドル活動に興味がなく、しかしやるからには本気で、とハイジョとしての活動に取り組む内にアイドル活動を楽しむようになったキャラである。 
恐らく旬のこのサインは、アイドル活動始めたての頃に考えた物だろう。ハイジョのみんなでアイドルっぽいサインをワイワイ言いながら考えている中、「そんなサインなんて……普通に名前じゃだめなのかな……」と試行錯誤した結果「署名」に落ち着いてしまったのだ。多分。
おまけにハイジョの皆はサインが署名であろうと特に突っ込まない。旬が最初に相談するであろう夏来は自分の無骨ですらあるカタカナ三文字のサインを完成させながら「ジュンらしくて……かっこいいよ……」と言うし、めちゃめちゃ可愛いサインを書いている隼人だって「ジュンらしいじゃん!」と100%本心で言ってくれる。旬もだんだん、これでいいかな、と思うようになる。
結果、旬のサインは「署名」になるのだ。

さて、話を冬沢に戻そう。
冬沢は初めてのサイン会の後、「俺のサイン、書くの時間掛かるし疲れるな……」と思い始める。
サインというか署名なので、そりゃ時間が掛かる。
彼は何しろとてつもなく真面目なので、サイン(署名)を色紙に書きながらファンとは丁寧に言葉を交わすし、文字だってなるべく丁寧にと心掛けるだろう。だが、自分の名前を丁寧に百何枚と書き続けるのはきっと大変である。
多分、後半になるにつれて字がじわじわとよれる。最後の方になると冬の下が点二個になってしまうサインとか出てくる。そんなサインを書き上げてしまい彼は「すみません、字が汚くなってしまって」とファンに心から謝罪するが、ファンはそんな気にしないでください!と返す。ファンからしたらいつもパーフェクトな立ち居振る舞いの冬沢が少しだけ隙を見せてしまう展開にまた心ときめいてしまうやつだからだ。
だが完璧主義者の冬沢は自分のそんな失敗を胸に刻み、次のサイン会までに克服して見せようとする。常に同じくらい丁寧なサインを、とペン習字の練習なども始める。恐らく彼には自分のサインを変えるという発想など毛頭ない。
「冬沢さんよくそのサイン書き続けられますよねえ」なるからかいを、洒落た英字のサインを書く後輩の南條にされても気にもとめない。
そして彼は二度目のサイン会ともなれば、最初から最後まで一定のクオリティでサイン(署名)を書き上げることが出来るようになる。二度目のサイン会までの間に恐らく二、三年はあるだろう。その間に冬沢は舞台のキャリアを着々と積む。ファンも増えるしサインすべき色紙の枚数も増えている。だが彼はやり遂げるのだ。そしてファンの間で「冬沢さんのサイン力が上がった」と話題になる。
己のすべき事を完璧に成したという達成感と僅かな安心感を胸に、彼はこれからも署名のサインと添い遂げるのだ。
その署名のサインは、共演者との寄せ書きサイン色紙の中でも確実に異彩を放つ、しかしハッキリとしたインパクトを残していくであろう。他の俳優ファンからも名前をすぐに覚えられる。何しろ「初見でも一目見ただけで名前が読める」サインなのだから。
しかし冬沢にとってのサインは己を表す記号の一つに過ぎないとしたらどうだろう。個性の発露の場としてはそこまで重要視していない可能性があると考えてみるのだ。

それでも冬沢のやる事は恐らく変わらない。
仮に彼自身がサインを重視していなくても、世間がサインを欲するのだ。であれば彼は完璧主義者故に完璧にサインをし続けるのであろう。重要視していないから手を抜く、などという事は彼の美学では許されない。
たとえちょっとめんどくさくても、入夏が崩し字+ハンコという爆速で終わるサインを確立させてサイン会ではサイン書いてる時間より手ぶらでファンと話してる時間の方が長いくらいでも、彼は気にする事無く丁寧に己の名を書きながらファンと向き合い続けるのだ。多分。

誰もが冬沢のように署名のサインを続けられる訳では無いだろう。サインが署名のキャラの中にはまだ十代の子もいる。というかこの記事で例にあげたサインが署名のキャラは英雄以外全員十代である。サインを変えたくなったら別に変えてもいいと思う。

だが、例え彼らが芸歴の途中でサインのデザインを変えでいずれ署名じゃないサインを書くようになったとしても、私はデビュー当時の彼らが同じ事務所やユニットメンバーのサインを見たりして悩みプロデューサーに相談したりしながらも、あるいはそれが正道であると確固たる自信を持って自分のサインを署名として提出したという点に私はとても愛おしみを覚える。
一見無個性であってもそれは間違いなく個性だ。
サインを考えた頃の手探り加減あるいは確固たる自信ゆえの輝きが、署名のサインには確かに詰まっているような気がするのだ。