雨降ってなんとやら

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色んな話をします。

月皇海斗さんとランズベリー・アーサーさんに特化したミュージカル「スタミュ」感想

 ミュージカル「スタミュ」(スタミュミュ)を東京公演で二回、大千秋楽の生配信で一回見ました。
 このミュージカルは、テレビアニメ「スタミュ」を舞台化した作品です。初めて2.5次元ミュージカルを見たのですが、脚本・演出・構成の素晴らしさ、そして演者さんによるキャラクタービジュアルの再現度の高さ、圧倒される歌とダンス。どこを取っても、原作ファンに向けた素晴らしい舞台だったと感じました。大の原作ファンである私が圧倒的多幸感に包まれて劇場を出たのだから間違いありません。

 私は「スタミュ」という作品のファンであり、同時にスタミュそしてスタミュミュの両方で月皇海斗を演じたランズベリー・アーサーさんのファンです。
 今回どうしても海斗君とランズベリーさんに特化した感想を書きたくて、少し特殊な感想記事を書くことにしました。

 

 感想の話をする前に、少しだけ原作アニメ「スタミュ」にまつわる話をさせていただきます。
 テレビアニメ「スタミュ」は、2015年10月から12月に放送されたミュージカルアニメです。ミュージカルを学ぶために音楽の名門校に集まった高校生達の物語が、ミュージカルに乗せて描かれました。完全オリジナルアニメということもあって放送開始時の注目度はあまり高くなかったのですが、放送期間中に公式が無料配信・一挙放送を何度も行い、更にファンによる熱心な口コミによって少しずつ視聴者は増加、そのクオリティの高い映像や脚本も相まって大人気アニメとなりました。2016年夏にはOVA全2巻が発売され、2017年4月からは待望の第2期も放送中です。
 スタミュの主要キャラクターを演じる声優陣は、主人公の星谷を演じる花江夏樹さんを筆頭に、星谷と同学年のキャラクターは若手から若手寄りの中堅、彼らの先輩にあたる華桜会メンバーは中堅~ベテラン寄りの中堅、そして最も先輩にあたるキャラクターには説明不要のベテランである子安武人さんを起用しており、キャラクターと声優陣の世代を上手くリンクさせたキャスティングが特徴的です。
 確かな実力を持った人気声優が多い中、キャスト陣の中に一人、スタミュで初めてメインキャラクターを演じた方がいました。月皇海斗役、ランズベリー・アーサーさんです。ランズベリーさんはスタミュで初メインキャラ、初キャラソン、更にスタミュのWebラジオで初ラジオパーソナリティを務めることになりました。
 このスタミュのWebラジオ「スタミュラジオ~目指せ!ラジオスター~」は半年弱に渡って放送されたのですが、この半年弱というのが非常に大きな半年弱になりました。初めてラジオパーソナリティを経験するランズベリーさんが、毎回ゲストとして訪れる先輩達に助けられつつ(第五回ゲストの申渡栄吾役の内田雄馬さんは後輩にあたるのですが、内田さんはWebラジオのパーソナリティ経験がありました)、少しずつパーソナリティとして成長していく。その様子を、スタミュのファン達は放送期間中ずっと見守ったわけです。その間に語られた、ランズベリーさんの初メインキャラである海斗への思いやスタミュという作品への愛。ファンの中でいつしかランズベリーさんは、スタミュという作品を象徴するかのような人物になっていました。
 そしてテレビアニメ放送終了から3ヶ月経った、2016年3月。2016年夏にスタミュOVAが発売されることが発表されました。この時発表が行われたイベント・Anime Japan 2016には作中に登場する「星瞬COUNTDOWN」の衣装が展示され、後にこの衣装は各地のスタミュイベントやアニメイトで展示されることになります。そして2016年5月に開催されたイベント「スタミュ in 文化祭」で、テレビアニメ第2期の作成が発表されました。
 そしてOVA発売を経た、2016年11月。「アニメイトガールズフェスティバル2016」にて、特報映像の中でスタミュ第2期の続報として新キャラクターの顔ぶれとアンシエントのキャストが発表されると同時に、「2017年4月からミュージカル上演決定」と発表されました。私はこの発表の場にいたのですが、ミュージカル上演と聞いた時周囲にいたファンからは喜びの中に少しだけ戸惑いも混じったような声が上がったのを覚えています。
 そして実はこの「ミュージカル化決定」の報をこの時初めて知った後のスタミュミュキャストの一人が、ランズベリーさんだったのです。
 一月にTwitter上で行われたスタミュミュのキャスト発表から一、二週間ほど経った頃、ランズベリーさんは同じ事務所の中島ヨシキさん、小林大紀さん(スタミュ一期二話に生徒役として出演しています)と共にパーソナリティを務めているラジオでスタミュミュに出演する旨を告知しました。そしてその時、衝撃の事実が判明したのです。以下、該当部分の書き起こしになります。

(敬称略)
小林「どういう経緯で決まったの?」
中島「一緒の役だからお願いしますって……」
ランズベリー「ううん、飛び入りでオーディション参加させてもらったの」
中島「え?!」
小林「えっすごい」
ランズベリー「だいたい進んでる状況で私が参加させて欲しいって飛び入りでオーディション受けさせてもらって」

「アーサー・大紀・ヨシキのカレイドスコープパーティー(8)」より
http://sp.nicovideo.jp/watch/1485855097

 開いた口が塞がりませんでした。
 同時に「この人ならやりかねない」とも思いました。
 その後、ランズベリーさんがパーソナリティを務めるラジオや雑誌、各種メディア上に掲載されたインタビューでランズベリーさんが海斗役になった経緯やそのためにしていることが次々と明らかになりました。
 そもそもランズベリーさんがスタミュのミュージカル化を知ったのは公式に発表されたAGFの日当日、一般のファンと同じタイミングであったこと。舞台でも海斗を演じたい、自分以外に演じて欲しくないという強い想いから、発表を知ってすぐ自ら事務所に連絡し、オーディションを受けたこと。舞台に立つ為のトレーニングと体作りをしていること。本業の声優業をしながらも寝食の時間を削りダンスレッスンと舞台の稽古をしていること。

 ネット上に掲載されている中では、こちらのインタビュー記事で特に詳しく語られています。

http://25news.jp/?p=12559
 声優の中には舞台俳優と兼業している人や元々舞台俳優だった人も多くいます。「スタミュ」のアニメ版キャストだと小野賢章さんやKENNさんがそうです。しかしランズベリーさんは純粋に声優一本で役者としてのキャリアを積んできた人です。舞台に立つための努力は相当な物があったと推測されます。

 さて、前置きが長くなってしまいましたが、ランズベリーさんが月皇海斗としてステージに立つにはそのような経緯があったわけです。
 「夢を諦める方法なんて知らない」──そんな、スタミュを代表するフレーズをそのままに体現したかのようなランズベリーさんの行動と思いの強さ。
 そしてランズベリーさんは月皇海斗としてステージに立ち、アニメそのままの声で歌い踊り、月皇海斗は確かにそこに実在すると思わせてくれる演技を見せ付けてくれました。
 忘れられないのが、二日昼公演の前説です。team鳳が担当した前説で海斗が喋り始めた瞬間一気に湧いた客席。そして本編中で海斗のソロ曲であるLimited skyが来ると感じた瞬間、一斉に身構える客席に走った緊張感。あれは「ランズベリー・アーサー演じる月皇海斗」だからこそ生まれた空気感でした。
 ランズベリーさんはスタミュの世界を誰にも負けないくらい愛していて、月皇海斗というキャラクターを誰よりも理解し大切にしていて、そしてほとんどのスタミュファンはその事を知っています。だからこそランズベリーさんが自らスタミュミュに飛び込んで行き月皇海斗を演じたことがどんなフィクションよりもドラマチックに映るわけです。

 更にもう一つ。
 2016年春頃、スタミュのアニメ版監督である多田俊介さんは、自身の代表作である「黒子のバスケ」の舞台版を見た際「スタミュも舞台を見てみたい」とツイート。それにランズベリーさんが「舞台でも海斗を演じてみたい」とリプライする、というやり取りがありました。
https://twitter.com/shunsuketda/status/722801962576519168
https://twitter.com/Art_C_Lounsbery/status/722806314133422080
 また、スタミュミュで使用された星瞬COUNTDOWNの衣装は、元はと言えば2016年のAnime Japanで展示され、更に各地のアニメイトに展示されたものです。大阪・日本橋アニメイトで衣装を間近で見たアーサーさんは「いつか着てみたい」とツイートしていました。
https://twitter.com/Art_C_Lounsbery/status/759343118252584960
 スタミュミュにおける星瞬COUNTDOWNの演出は、原作に対する最大限のリスペクトが感じられる物でした。自らのパフォーマンスを終えたteam柊のメンバーが観客をネクストステージへと誘えば、天花寺による口上が始まる。(この記事の趣旨の関係上あまり触れられませんでしたが鈴木勝吾さん演じる天花寺は本当に素晴らしく、この口上のシーンも最高でした)そして幕が上がり、手作りのステージに立つ五つのシルエットと高揚感を掻き立てるイントロ。アニメ最終話を見た時のあの感動を新しい形で呼び起こして貰いました。
 そしてその中には、あの星瞬COUNTDOWNの衣装を着て月皇海斗として舞台に立つランズベリーさんがいました。
 この瞬間はスタミュファンにとって、「原作に対する大きなリスペクトが感じられる舞台の最大の見せ場でクライマックス」というだけでなく、「誰よりもスタミュを、月皇海斗を愛している一人の青年が月皇海斗として舞台に立ち、夢を叶えた瞬間」でもあったのではないかと、私は思います。

 私はそこに確かに、スタミュという作品が持つ輝きを見たような気がしました。
 スタミュという作品の中では、芝居の世界には付き物の厳しさも描かれています。そしてその厳しさを乗り越えた少年たちがステージに立ち、観客に向けて見せる輝きが我々ファンの胸を打つのです。
 そしてそれは、自らスタミュミュに飛び込んで様々なハードルを越え舞台に立って見せたランズベリーさんも同じです。
 ミュージカルというフィクションの次元の中に織り込まれた、「夢を諦める方法なんて知らない」青年の存在というノンフィクション。
 勿論ランズベリーさん以外の演者さん、例えば初座長を務めた星谷悠太役の杉江大志さん、スタミュミュで初めてミュージカルの舞台に立った漣朔也役のTAKAさんのように、他の演者さん達も沢山の壁を乗り越えてステージに立ったかと想います。その辺りはきっと私より演者さんのファンの方々がよく知っているでしょう。
 「スタミュ」という作品が元々持っている成長・青春もの、ステージものとしての属性は、3次元に生きてステージに立つ若い役者の皆さんと非常に強くリンクしていたのではないかと思います。
 スタミュミュでも使用された「俺こそミュージック」の歌詞に、「欲しい物があるのならばそれが欲しいと叫びなよ」という歌詞があります。鳳はこう続けて歌います。
 「言葉が魔法を連れてくる」。
 指導者である鳳樹から教え子に向けて歌われるこの歌は、スタミュという作品が持つ精神性を強く表現しています。
 スタミュは、鳳の教えを受けたteam鳳の五人が「夢を諦める方法なんて知らない」と、自分達なりのやり方で輝く方法を探していく物語でもあります。
 そして、スタミュを強く愛しているランズベリーさんが自らスタミュミュのステージに挑み、初めての舞台を成功させたのは、スタミュという作品から見ても、スタミュミュが原作に忠実に作り上げられた2.5次元ミュージカルであるという点からしても、非常に意味深いことなのではないでしょうか。

 スタミュという作品が描き出す、それぞれ違う壁を越えた時に少年達が見せる輝き。生身の役者さん達が演じることで、そしてその中にランズベリーさんというスタミュという作品にとってもスタミュの原作ファンにとっても特別な人がいることでその輝きはいっそう説得力を増したのではないでしょうか。

 舞台の上で海斗としてDreamerを歌うランズベリーさんの姿を見た瞬間、「月皇海斗は現実なんだ」と思いました。
 そしてランズベリーさんだけでなく、目一杯に眩しく輝くスタミュミュのキャストの皆さんを見ていると、「スタミュという作品が持つ輝きは現実」と感じました。
 正直、スタミュのミュージカルと聞いて最初は不安でした。そんな不安を全て吹き飛ばしてくれた、最高の舞台でした。私がランズベリーさん個人のファンであるという贔屓目を除いてもです。
 そして、そんな素晴らしい舞台のカンパニーにランズベリーさんがいるということが、ランズベリーさんが自らスタミュミュに挑まなければそのカンパニーの一員にはなっていなかったということが、ランズベリーさんの、スタミュの一ファンとしては堪らなく嬉しく思います。
 月皇海斗とランズベリー・アーサーさんが出会えたのは、スタミュという作品にとってもファンにとっても本当に大きいことだったんだと改めて実感しました。
 
 願わくば、再演もしくは続編という形で、もう一度ミュージカルの中の綾薙学園に行けることを願って。
 ランズベリー・アーサーさん、スタミュミュに関わった全てのキャスト・スタッフの皆さん、素晴らしい舞台を本当にありがとうございました。